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Four Tet × Floating Points

Four Tet ×
Floating Points

肌を刺すような冷気の中をくぐり抜けてクラブへと通う季節は、一段と『Rainbow Disco Club』が恋しくなる。ラインナップの発表を心待ちにしながら、その回数を重ねるたびに確かに近寄ってくる春のフレッシュな暖気を感じている心持ちと言ったら、実に無邪気で、自然とうっすら笑ってしまうようなものだ。理由は紛れもなく、伊豆稲取高原で過ごす3日間がいつも特別だから。

ディスコ、ハウス、テクノ、ファンク、ジャズ……、如何なる様式の音楽であれ、平原を滑って伝わる音の波が身体を包みながら空へと抜けていく感覚というのは日常にはそう無い。それ以前に、肌も火照るゴールデンウィークの陽気に身を任せながら、最高峰のDJやライヴに耳を傾け、身体を揺らし、たまに寝そべってみる、この全ての時間の過ごし方が最高に幸福な非日常。

何かを忘れようとするというよりかは、大したことを考えなくても済む。しかしながら、非日常的な3日間は、時に、何を食べたか、何を飲んだか、何を喋ったかすらも覚えていさせてくれる(その真逆のこともあるが)。もちろん、あの日、あの景色で、誰のどんな曲がかかっていたかは鮮明に覚えていて、終わった後にその話を友人たちと繰り返し何度もしながら、また次の『Rainbow Disco Club』が恋しい日々を迎えるのだ。

今年、その語り種のひとつになるのが、全ラインナップの一番初めに記された「Four Tet × Floating Points(B2B Set)」であることは間違いない。何より肝心なのは、2人が5時間もブースをシェアすることだ。

ハウス、ダブ、ベース、ソウル、ジャズ、UKアンダーグラウンド史を辿るようにありとあらゆるダンスミュージックがプレイされていき、時として、レコードディガー&コレクターである2人ならではの風変わりなトラックがフロアを圧倒するやもしれない。ただレアグルーヴを連発するだけでは終わらない、彼らのプロダクションのルーツが解き明かされていくようなセットのコンテクストと、それを一段と魅力的にするテクニック、そして2人を囲む景観。16時から21時までの日没に向かっていく中で、いつ何が飛び出しても本当におかしくない、彼らにとっては絶好のシチュエーションだ。

2人の相性についても保証済みだ。そう言える、2人によるB2Bミックスが、ロンドンのオンラインラジオ『NTS Radio』のサイト内にある、Floating Pointsがホストを務めているマンスリープログラムのアーカイヴページにて今すぐに聴くことができる。何しろこのプログラムへのFour Tetの登場率は準レギュラー並みで、ほとんどがラジオ向けのミックスだが、選曲における趣味嗜好とその幅広さは、全体を通じてどちらがどの楽曲をプレイしたのか見当が付かないほど合致している。会話のテンポ感に似た曲の繋ぎ方とグルーヴの紡ぎ方も相思相愛の証。めちゃくちゃ仲の良い2人が、ダルストンの『NTS』のスタジオで夢中になってお互いのレコードコレクションを聴かせ合っている光景が眼に浮かぶ。

しかしFour TetとFloating PointsのB2B DJ Setと言えばやはり、2015年1月2日に閉店したロンドンのヴェニューPlastic Peopleのクロージングパーティーでの6時間セットだろう。これはFloating PointsのSoundCloudページで聴くことができる。

Plastic Peopleは、閉店地に移転する以前と合わせて20年近くの歴史を持ち、2000年代のロンドンを中心としたUKダンスミュージック・シーンに非常に大きな影響をもたらしたヴェニューであった。それはまさにUKアンダーグラウンドの坩堝とも言え、閉店間際まで続いたTheo Parrishのレギュラーパーティーや、ダブステップの発祥と発展に貢献したパーティー『FWD>>』が開催され、Four TetとFloating PointsもレジデントDJを務め、多大な影響と刺激を受けた場所である。ちなみに、今やたまにFour TetともFloating PointsともB2BをしているJamie xxも、10代の頃には毎週のようにPlastic Peopleへと通っていて、2人がプレイする日は欠かすことなく観に行っていたと以前教えてくれた。

また、Four Tetが“Pinnacles”(BサイドはDaphni a.k.a Caribouの“Ye Ye”)のレコードを最初にプレイした場所はPlastic Peopleで、Floating Pointsの傑作EP『Vacuum』は、Plastic Peopleで毎月木曜日に開催されていたデモを聴かせ合うパーティー『CDR』から生まれたと言う。もちろん2曲とも、深い想い出と共にPlastic Peopleのクロージングパーティーでのセットに込められている。そういったバックグラウンドも全て含めて、オンラインにミックスが溢れる2010年代でも、これは随一に聴くべきミックスのひとつである。再生してから2時間ほどで確かに窺い知れるのは、Four TetとFloating PointsのB2B Setは、2人の選曲が特に相応しい場所/空間、もしくは特別な瞬間にこそ真価が発揮されることである。そして、その機会が『Rainbow Disco Club 2018』で実現すること、そもそもツアーや制作で多忙を極める2人が日本で揃うことさえも、全てが本当に奇跡と言っても過言ではない。

いや、言うなれば、B2Bという行いで最高の結末を招くこと自体が奇跡に近い。それは例えば、スポーツやプロジェクトなどにおける、チームやユニットに似ている。結成に関わる人数が多くなればなるほど、又それぞれの個性が強ければ強いほど、全員の思想や振舞をまとめるのが困難であり、エゴイズムが不和の元になるように。アーティストとして優れた独創性がプレイスタイルと結び付いているDJであるほど、必ずしも期待通りの変化が起こる訳ではないフロアと向き合いながら、相手のDJとも向き合って最上の調和を保つべく努め、最終的にフロアの熱狂を目指すのは随分消耗するはず。しかしこの多難の裏を返せば、思想や振舞に支えられるそれぞれのプレイスタイルが多少なり似ていれば、数時間後の目的地を共有するだけでも奏功する見込みがある。それは正しく相乗効果と呼ぶもので、感動と衝撃は、通常の何倍をも上回る。アーティストからしてみればきっと、相乗効果を起こせる相手が存在することが奇跡なのだろう。

今年の『Rainbow Disco Club』は、大きな相乗効果の期待できるB2Bが多い。今回が初共演ながらもB2B経験においては百戦錬磨の2人、DJ NobuとJoey Andersonについては、クラブよりも開放的な野外フェスの方が両者のイメージやスタイルが合致して、エクスクルーシヴの真価を発揮しそうで俄然期待が高まる。昨年はアムステルダムのヒーローとして地元のフェス『Dekmantel』のクロージングを務め、凄まじい熱狂を生んでいたAntalとHuneeも相性に磨きがかかって例年以上に必見。Red Bull Music StageのPeanut Butter WolfとMUROのB2Bセットにしても、セレクトとテクニックを鑑みれば当然その魅力は他のB2Bには全く劣らない。

観たことのない景色、感じたことのない感覚、日常のサイクルから解放されて非日常への浸透をしたいならば、『Rainbow Disco Club 2018』は多くの面でその願いを叶えてくれるはずだ。

Text by Hiromi Matsubara (HigherFrequency)